2024年10月31日木曜日

SP1200

出会い


SP1200というサンプラーの存在を初めて分かったのは高校生の頃でした。当時一番好きだったアルバム、DrDreの2001アルバムのジャケットで見ました。

出処:Dr.Dre - 2001




当時は、音楽を作ってみたいという気持ちはあったけど、まだやってなかったので、あれがどういう機材なのかはわかるはずが無かったです。ただし、ジャケットの写真にあるくらいの機材だから、多分彼のプロダクションの中で結構重要なポジションの機材だろうなーと思っただけです。

そして長かった受験も終わり、入りたかった大学にも入学し、予定通り(?)作曲を始めました。そして作曲の勉強と、音響や機材の勉強もやっていったけど、なんか自分の音楽ってリズムが弱いっていうか、自分が聞いてた音楽と一番違うのは「リズム」そして「グルーブ」だと思ってました。今考えたら足りないのはそこだけじゃ無かったと思いますが(笑)多分当時には自分の能力不足をあまり認めたく無かったんじゃないかなと思います。だから、自分の成長より、機材とかにハマってしまったんじゃないかなーと。

とにかく話を戻して、、
ずっと悩みながら、いつの間にかからMPCというサンプラーに興味を持つことになりました。多分今もそうですけど、ヒップホップが好きな人たち全員の憧れの機材だったと思います。そして自分のその中の1人で、なんかあれがあったら自分も立派なグルーブを作れるんじゃないかなと思い、頑張ってバイトして、MPC3000を買うことになりました。

当時買ったMPC3000。今はLEバージョン所持中



当時韓国ではMPCを使う人たちのオンラインコミュニティみたいなのがあったので、そこに加入していろんな人たちを知り合うことになりました。その中の1人は、ヴィンテージの機材にとてもハマっていてすごい珍しい機材をたくさん持ってました。そこで、自分が何年前かにDr。Dreのアルバムでみた機材を、本物を見れました。
SP1200。
それが初めての出会いでした。


それの音はすごかったです。MPC3000とはまた違う圧力。体で感じられる低音、音の力。とてもカッコ良かったと思いましたが、買いたいとは思わなかったです。なぜかというと、彼がいうにはSP1200はグルーブが良くないし、あまり便利じゃないっていってたからです。トラックの概念がないのでもしかして入力する時ミスでもしたら最初からやり直すしかないっていってたかどうか。良く理解はできなかったけど、とにかく「ヒップホップには良くない」という話で理解したし、当時学生だったのでそんなに高い機材を何個も買えるわけでもないし、いつかお金持ちになったら買おうーくらいの感じだったと思います、その後何年か経って、私はプロミュージシャンって言えることになり、自分の部屋にもヴィンテージって言えるくらいの機材が少しずつ増えていきました。もちろんまだその時までは今のようにヴィンテージの機材の値段が高くなる前だったので、機材を買うことにあまり負担はなかったです。また当時はソフトシンセがどんどん流行りになって、持ってた機材を売ってしまおうみたいな雰囲気があったので、機材の値段がどんどん安くなっていった時期でした。そういう理由で、当時買ったいまだに自分の部屋に残っている機材は、今の人たちが聞くとびっくりするくらい安く買ったものたちです。

その中、SP1200も買ってみようかな?と思ってました。当時、SP1200の値段は20万円くらいでしたから、もちろん安い値段ではないけど、今の値段に比べるととんでもないくらい安い値段ですね。
でも、自分にはまだ高いと思ってましたし、あれかってもしかして壊れたらそれから地獄が始まってしまうと思ったので、買うことをやめました。

その後、1−2年後、いきなりヴィンテージの風が吹いてきました。ヴィンテージのアナログシンセはもちろん、MPCなどのサンプラーたちもすごいスピードで値段が上がって、今の値段になっちゃいました。
SP1200も急に値段が上がった機材でした。自分が知ってる限り、最近はもう100万円くらいだと思います。
あ、もう買えなくなってしまったんだと思ってました。SP1200じゃなくSP12でも買っておけば良かったと思ってましたが、もうそれは過去のことになってしまい、そう思っても何も変わらなかったです。
そういうことで、自分はSP1200とかは完璧に忘れて音楽活動をやっていきました。もちろんたまには、すごいLoFiな音が出したかったりする瞬間もあったのですが、自分が持ってるサンプラーやプラグインでなんとなく解決しました。自分が思ってる・聞いたことある「その音」は出せなかったけど、なんとなく似たような音は出せました。





Rossum SP1200のリリース


その後、何ヶ所かの会社からSP1200をモデリングした機材を出してるようでしたが、あまり興味は無かったです。なぜかというと、経験上「何かをコンセプトにしたもの」・「クローン商品」という時点で買っても絶対満足できないはずだよなという確信があったからです。自分もなんか欲しい機材があった時、お金がたりなくてその代替案の機材を買ったりしたことがありますが、結局満足できずに売り、元々欲しかった機材を買うことになる、結局余計にお金を使うことになるケースが多かったので、あまりそういうものたちには興味が無かったです。

その中、Rossumという会社からこういったSP1200がリリースされましたっていうニュースを見ました。デザインもヴィンテージのSP1200と同じ。本当かよく分からないけどオリジナルのSP1200と同じっていう話を、Youtubeからも聞きました。




でもまだ高いな、、、と思っていました。たしかSP1200の音って独特で魅力的な音だけどあんな値段を払いながらつかうべきか、そして現代の音楽にも使えそうな音かって考えたら、ちょっと違うよなーと思っていました。その値段なら他の機材を買った方が自分お音楽制作に役に立つんだろうなと思い、調べることをやめました。

それからまた2年くらいの時間が経ちました。


やっと、購入


その間、SP1200を含め、ヴィンテージの機材の値段はもっと上がってしまい、多分自分が余裕が十分あったとしてもあんな値段はかわないようなと思うくらいの値段になりましたね。
個人的は、自分のアルバムを制作していましたけど、子供の頃聞いていた「その音」が出したくて苦労していました。自分はもうMPC3000、ASR-10、DSM-1などのヴィンテージのサンプラーがあってあれらで色々試してみたけど。「その音」を出すことには失敗しました。その中、メリハリでASR-Xも買ってきて色々いじってみましたが、確か魅力・個性はある音だけど自分が出したいと思う「その音」とは違ったんです。

急に別の話になるけど、その時期、私はAmerican Sagaというドラマを見ていました。

出処:hulu公式サイト



これはWutangClanの話を基にしたドラマですけど、彼らがまだチームを組んでなかった時期からドラマが始まるのですが、ドラマの中でRzaがSp1200と出会うシーンがありました。



SP1200に惚れてしまった彼は、色々違法なバイト(?)をしながら、SP1200を買えるお金を稼ぎます。色々あるけど結局SP1200を買い、音楽制作にもっと頑張るようになるエピソードがありました。でもドラマの後半になっていくといつの間にかから彼のメインの機材はSP1200ではなくASR10になる感じですけど、、

とにかく、そのシーンを見た自分は忘れていたSP1200への熱情をまた思い出します。そしてまたRossumのSP1200の値段を調べながら、実際にRossum SP1200を使っているビートメーカーさんたちの動画を探したりしました。

過去のこと振り返ってみたら、全ての機材はいつか値段は高くなるんだな。昔はもうちょっと頑張れば買えたはずな機材がどんどん買えない値段になっていくんだなと思い、Rossum SP1200を買うことに決定しました。一括払いするにはちょっと負担がある値段なので、何ヵ月にわけてはることに。
でもかなり高いので、日本までの発送料も高いけど、税金もすごく高かったです。もう税金だけでもちっちゃいシンセを買えるくらい、、、
ダメなことだと知っているけど、私はアメリカにいる友達に自分代わりに受け取って、インボイスに安く値段を書いてもらって、発送も郵便局を使って送ってもらうことにしました。(Rossumから直接送ってもらうとFedexの配達になることもありました。)
もちろんこういう場合、なんかトラブルがあったりすると大変なことになるんですが、、、自分の運を信じて見ようと思いました。
そういう理由でちょっと時間はかかったですが、やっと、SP1200はわたしのところまで届きました。

やっと到着したSP1200

最初のSP1200を見た時、最初の印象は「でか、、、」でした。昔、知り合いのスタジオで見た記憶はあったけどこんなにでかかったっけ、、と思いました。とにかくSP1200に電源をいれ、ケーブルを繋げました。

出処:Rossum公式サイト




SP1200は8個のIndivisual outのそれぞれに違うフィルターが適用されていることで有名です。そしてケーブルを半分くらいだけさしたりするともっと独特な音がでるって。
でもRossumはありがたく、オリジナルと同じOutput(フィルターがかかっているOutput)と、フィルターが適用されていないOutputを作ってくれました。でも私は多分Mix Outしか使わないよなーと思っていましたが、それは大間違いでした。
なぜかというと、一つのアウトプットに一つのサンプルしか出られない、つもり、それぞれのOUTPUTがモノポリーっていうことでした。なので同時に多数のサンプルを出したいとも思ったら、それぞれ別々のアウトプットでだすしかない、、、ってことでした。(最初はこわれたのかな?と思いました)




SAMPLING

一応、SAMPLINGからやってみようと思いました。当時のサンプラーの殆どがそうですけど、SP1200もMonoです。そしてSAMPLINGの最長時間は2.5秒。現代的にはあり得ないスペックですね。この短い時間も再現する必要はなかったんじゃないかなと思います、、、

とにかく、80−90年代のHiphopやElectroのミュージシャンたちは、このスペックの限界を乗り越える為に、一つの技を開発します。それは、サンプリングする時には素材をSpeed-Upさせることでした。例えば、レコードの場合RPMを上げて再生するとか。そんな感じでSpeed-Up/Pitch-Upされている素材を、SP1200でまた元々のPitchに戻すことです。そうすると、理論的には低音質になるのですが、とてもかっこいい音になります。

Pitchを変えすぎると高周波数のノイズが発生しますけど、これはフィルターをかけると・かかるとマシになると思います。

音的にはとてもかっこいいけど、サンプルをChopしたりすることはちょっと不便な印象です。当時のプロデューサたちがなぜ結局ASR-10とかMPCシリーズを選んだのか、わかるような気がするところでした。






Sequencing 


じゃ、SP1200はサンプラーでありながら、ドラムマシンですからこれからはプログラミングをやってみます。パターンを(SP1200のシステム上ではSegmentという表現を使います)作って、それで一つのSongに組む形です。これはMPCシリーズやASRシリーズとあまり変わらないのですが、、、

トラックの概念がないです。
トラックなしで、そのままオーバーダビングしていく方式です。もちろん、リアルタイムでERASEボタンを押しながら素材のボタンを押せば、ミスしたノートを消したりできますが、トラックがないってことは相当不便です。そして普段作業する時にはMIx Outにケーブルを繋げておくので、8個のOutput全ての音が聞けます。
でも、実際にはOutputごとに1Voiceのmonopolyのシステムなので、例えば3番のOutputからドラムのループが出てる時、スネアの音も3番Outputに出すと、ドラムのループがミュートされます。
なので、素材のOutput分配も考えながら作業しなければならないのです。

私の場合はSp1200だけで作業することはあまりないと思いますし、複雑な曲をこれで作ることは多分ないと思いますが、最近のサンプラーワークステーションみたいに使うつもりだったら、買っちゃダメだと思います。

SP1200をちゃんと使う為には8個のoutputに全部ケーブルを繋げる必要がありますが、私はMixerもないし、これ以上部屋に何か物を増やしたくないので、MixOutだけ繋げておいて、DAWにレコーディングする時、差し替える感じです。1番から8番まで、フィルターの感じが全部違うので聞いてみながら選びます。




Swing


SP1200もMPCシリーズみたいにGroove Quantizeの機能があります。ですが、Swingの感じが少し使いにくいところがあります。ちゃんと使うとPete RockやJ Dillaみたいなビートになると思いますが、そういうグループを作るのは相当難しいです。

MPCシリーズよりSwingが強めなので一つのこっつがあります。
BPMを二倍にしてシーケンスすることです。
例えば、今作っているビートのBPMが86であれば、172にセッティングしてプログラムすることです。そうしておいてSwingを67%とか71%にするとちょうどいいくらいのSwingのグルーブになります。

ですが、
MPCは基本的にノートが自分で基本的に定位の前後へ少しずつ移動し、自然なリズム感を出してくれるのですが、SP1200はもっと機械的な感じなのでMPCみたいなグルーブには絶対なれないです。やっぱり音もそうですけど、グルーブ感もトレンド・流行りがあると思うし、それは音楽によっても変わると思うので自分で選ぶことだと思います。

(트랩 1200 영상 찾아넣기)
ちなみに、あるドキュメンタリーで、初期のTrapのプロデューサーたちがTR808の音を全部SP1200に入れて、808デイスクを作ったという話がでますけど、Trap MusicがBoomBapみたいな(理論的にいうと正確じゃない)リズム感じゃなく、機械のような正確なグルーブ感・プログラミングの感じがするのはそういう理由ではないかなと思います。もちろん、TrapのスネアがBoombapのようにSwing感があるスタイルだったら、、、ちょっと想像がつかないのです。


総評


基本的には満足です。
ヴィンテージのモデルを完璧に再現してしまって不便なところもあると思いますが、SDカードが基本的に付いていたり、トータルサンプリング時間がちょっと長めっていうのはいいと思います。
もちろん、、ドラムだけ使うにはやっぱり高い機材だとは思いますし、本体のサイズもでかすぎるし、重い、、、ので調べてみたらSP1200をラックに変換してくれるというサービスがあることを見つけて、今なやんでいるところです。Rackにすると空間的にはマシになると思いますが、Rackになるとボタンを押すことが不便そうで笑

出処:ghostmpc





とにかくSP1200の話はここで終わりです!